生活に密着したコミュニティ通訳や翻訳を地域に根ざしていく「多言語センターFACIL」

2018年度のプロジェクトである、1WEEKトライアルに参加された多言語センターFACILの村上さんにお話を伺いました。

※本レポートは、2019年2月9日開催、神戸ソーシャルブリッジフォーラムでの登壇内容をもとに作成しています。

多言語センターFACILについて

村上さん

日本に住む外国人の3つの壁とは、心の壁、制度の壁、言葉の壁。

阪神・淡路大震災のときに「外国人がもつ(日本の)住民との3つの壁」は、心の壁(差別や偏見)、制度の壁(外国人にピントが合わされていない制度や自国との制度の違いなど)、言葉の壁、この3つがいろんな形でいろんなところに重なっていることが露見しました。

これまで同じまちで生活しながらもすれ違って生きている人々が、仕切り1つない避難所で生活する中でお互いがお互いをすごくストレスに感じる環境ができてしまいました。心無い人が避難所の壁に「外国人は出て行け」というような差別的な落書きをしたり、救援物資が届いた際に「日本人から配るべきだろ」という言葉が聞かれたりといろんな心ないことが起きたりしました。在住外国人からすると、いつになったら救援物資が配られるのか、いつになったら学校が始まるかなど、得たい情報が全然分からない状態でした。そういった状況から見えてきたのは、災害時だけでなく災害が起きる前から、外国人の方は様々な分からない状態、場面に直面していたということでした。

災害時は社会の弱い部分や弱い立場の人の存在をより浮き上がらせます。その状況に対して、新しい町を作っていく中で「3つの壁」を乗り越えていくため、地域で共に生活している外国人のニーズにこたえた翻訳・通訳をしていこうと考えたのが活動開始の背景にあります。

これまでの翻訳・通訳のイメージは、ビジネスで来られた外国人が利用するというもので書類の申請など1回数万円といったものです。病院に行きたい、行政で何か手続きをするときについてきて欲しい、と言う日々のニーズに1回数万円も取られていたらとんでもない。それまで日々の助けて欲しいことは知り合いに頼んでいたわけですが、知り合いの方のスキルに依存するし、知り合いの都合もあるのでお願いするのを我慢していることも多かった。我慢している間に病気が悪化して大変な事態になることもたくさんありました。こうした地域の中で日常生活における翻訳や通訳ができる仕組みを作っていくことからスタートしたのがFACILのコミュニティビジネスです。

「コミュニティビジネスとしての翻訳・通訳」と「多文化多言語に関する社会貢献活動を橋渡し」する活動として、外国の人と地域をつなげていく、その中に「多文化共生」というテーマがずっと根底にあります。

例えば、外国人の方が地域に入ってきたときにまず直面するのがこのゴミ問題です。FACILの事務所がある鷹取の野田北部地域でも、「外国人の人たちはゴミだしのルールを守らない」と震災後ずっと言われてきましたが、地域の方たちとの会話の中で、地域の代表の方に「いままで外国人はルールを守らないと思っていたが、もしかしたら自分たちの方が外国人に地域のことを伝え切れていなかったのかもしれない。ゴミだしのルールのチラシをベトナム語に訳してくれへんか。」とお願いされることがありました。

ベトナム語でゴミの出し方が分かるようになれば、分別や曜日の間違いは解決していくものです。生活のいろんなところで多言語のバリアがある、それを超えていくことでお互いの共通理解が深まっていく、それがまちづくりに繋がっていくことを強く感じています。

翻訳はボランティアに頼むとお金はかからないけど品質は確保しにくく、本職に頼むとすごくお金がかかります。FACILでは、今まで運用が曖昧だったコミュニティ通訳翻訳を確立していくために、しっかりとした値段をつけることに取組みました。

たとえば証明書を例に取ると、外国人が日本で生活、転居するときに必要な届出はFACILでは1枚3,500円程度です。活動を始めた当時、一般の翻訳サービスなどでは1枚1万くらいでしたが、4人家族で4万ともなると大変です。そこで、翻訳する人は同じ日本で生活する外国人の方で無料のボランティアではなく、ある程度の対価が行き来する仕組みをFACILでつくっていきました。

また、「外国人コミュニティの自助活動に寄与する」ことに取組んでいます。外国人の生活相談にのったり、地域の日本人と連携を図って外国人の方を地域で孤立させないコミュニティを作ったりしていくことはすごく大切です。外国人の子どもの教育、各種イベントのPRや、情報発信を外国人コミュニティの中でしていますが、翻訳をコミュニティへのお仕事としてお願いすることもしています。

もう一つ、行政の多言語・多文化政策に対して提言を行うことにも取組んでいます。冒頭のゴミの出し方のルールを多言語に翻訳したチラシを作った後、地域の代表の方と一緒に長田区役所に行きました。ゴミステーションに多言語の看板を作るための予算確保を提案して、それが神戸市で初めての多言語の看板だったと思います。必要だということを提言しながら、多文化・多言語の環境づくりに取り組んでいくことが、コミュニティビジネスを行っていくためにも必要になります。

FACILの現在のスタッフの登録者は約1,200人で、依頼は個人の方だけではなく、企業や行政からも受けています。必要な情報を共有できるようにしていく、生活に密着したコミュニティ通訳や翻訳が地域に根ざしていくことで外国人の生活で困っていることをサポートできる。それは地域自体が活性化できる仕組みにも繋がっている。それが、FACILのコミュニティビジネスだと考えています。

地域住民の1人として、より住みやすい町を共に作るのに「多文化共生」のキーワードはよく言われますが、マジョリティから見た多文化共生は、他の文化を強制的に纏め上げる形になりやすい。でも、本当に困っている人たち、マイノリティの声をしっかりと地域に届けていく、その仕組みを作っていく、そこにはいろんな気づきがあります。

例えば、駅にあるスロープやエレベーターの完備については、「このままでは私たちが電車に乗れないじゃないか」という車椅子の方の切実な思いがありました。実際にエレベーターやスロープができると、車椅子の方だけではなく、子育て中のベビーカーの方もすごく利用しやすいような駅になっていく。こういった全ての人に優しいことへの気づきをしっかりと繫げていくことがコミュニティ通訳翻訳においても非常に重要だと思います。通訳翻訳以外にもナレーションや司会者のコーディネーションをさせてもらうなど、いろんな形で多文化・多言語をキーワードに活動しています。

 

プロジェクトの取り組み

現在の課題を「現象的」「本質的」「短期的」「長期的」の軸で整理。なかなか手の回らないところを1週間で!

活動をしていくと登録者もどんどん増えていきますが、バックオフィスの方が大変になってきます。小さい団体・少ない人数で回していると、コーディネートから会計までいろんなことを全部しなくちゃいけない。目の前にあるやらなきゃいけないことからやってくと、インフラ部分、特にバックオフィスがずさんになってしまうのだが、だからと言ってなかなか人を増やすわけにはいかない。そこで、なんとかそこを効率化できないかの検討をお願いしました。

ブリッジメンバーは、企業でシステムを担当されていた方、経理を担当されている方、人事担当や市の職員の方など、ほんとに多様でした。結構念入りにヒアリングを受けました。具体的には会計とデータベースのお互いの連携がない為に、結局2回3回同じ数字を打ち込んでいて、そうすると1つ桁が違うと言ったミスや齟齬が出てきて、間違いを洗い出すのに時間がかかると言ったことがあります。例えば、データベースと会計をリンクさせるような仕組みはないかと言った話題が上がりました。

バックオフィスを強化できると、捻出された時間と力をコーディネートやその他の色々なことにまわせるようになります。また、今回ヒアリングを受けながら思ったのは、1,200、1,300人くらいの通訳翻訳者の登録を得て、いろんなお仕事をいただいく中で、コーディネーターが結構きりきり舞みたいな状況で、登録者を活かしきれているのか、またオフィスもふと気軽に入れるような雰囲気ではないなということです。

もともとは震災のときに始まったボランティア基地で、ある種ボランティアの方が自由に出入りできるような空間だったのに、それが狭まってきているという課題があります。それは新しい力、今回のブリッジメンバーの方たちのような新しい力を取り込んで活動をどんどん効果的なものにしていくチャンスを逃しているのじゃないだろうかという危機感もあって、バックオフィスの話から始まって、現在の課題とそれをどうしたら仕組みで解決できるだろうといった話もしました。

1WEEKトライアルの成果物としては、FACILの業務フローを書いていただき、業務分析をした資料や、会計ソフトとデータデースがリンクしているソフト何個かを見比べやすいように整理して、現在のデータをクラウド化できないかなど具体的にご提案いただきました。なかなか手の回らないところを1週間でやっていただけてすごくありがたかったです。

現在の課題を「現象的」「本質的」「短期的」「長期的」の軸で整理してくれて、「現象的」でかつ「短期的」な問題は私が言っている「内部業務の効率化」があるのですが、実際にはシステムの刷新、さらにはプラットフォーム型のビジネスというか、コーディネーションが全てを仕切るのではなく、コーディネーションのもとでいろんな人たちが活躍できるようなコミュニティのソーシャルビジネス化が「長期的」「本質的」に目指すべきところではないのか、と図示してとらえていただきました。この図もしっかりと団体内に共有させていただきました。

メンバーのみなさんからは、普段見られないNPOやコミュニティビジネスの世界を見て、「何でもかんでも自分たちでやらないといけないんですね」と驚かれていて、すごく刺激を受けていただいたみたいです。「やっていることが社会変革や社会課題の改善を目指すことが直に分りやすく感じられたのが、すごく良かった」という声もいただきました。

成果物の一部

 

一般参加者からの質問

(質問)1週間という設定の場合、1回か2回会ってヒアリングして終わりという感じだと思うのですが、業務フローが書かれたものは前からあったのですか?

私の頭の中に書けばみんなが分かるというのはありました。参加されたブリッジメンバーはご自身たちの整理のためにも業務フローを作られていました。

 

(質問)1,000人以上の登録者というのは全員ボランティアですか?

対価を払っているのでボランティアではないです。企業や行政からの仕事の場合には大手に負けないくらいの対価を支払っています。病院同行の通訳は、2時間通訳してもらってもビジネス通訳よりは安くしか払えない状況ですが、対価よりも必要性を理解してくださっている方が多いですね。活動の趣旨をよく理解してくださっている方に支払いの大きいお仕事をお願いするといった配慮はしています。

 

(質問)質のキープはどうされているのですか?

質の話になると頼みがちなのは、実績があり経験の長い方たちになりますが、コンスタントに受けてくれる保障はどこにもないので、常に新しい人たちを探しています。はじめに短くてリスクの少ないお仕事から依頼して、様子を見ながらです。みなさんフリーランスで翻訳通訳をされていて、他のところにも登録されています。なので、FACILで鍛えるというわけではなく、みなさんそれぞれ自己研鑽いただいた状態で、多言語・多文化環境を開いていく活動に参加してもらっています。

 

(質問)1,000人の中にも実績が十分な人もいれば入ったばかりの人もいると思います。個人ではなくFACILが仕事を請けるとなると、翻訳通訳の質の担保をどうするかはとても重要で、どうチェックするかが気になります。

初めてお願いする人の場合、どれくらいのスキルなのか、翻訳を作ってもらって、それをうちで登録している信頼のおける方に校正、確認してもらいます。FACILでは絶対にネイティブの目を通すようにしていて、日本人が訳してもネイティブがチェックする形を必ずとるようにしています。

 

(質問)件数が多くなると、内容が違うなどのトラブルも出てきませんか?

それぞれの解釈によっても違いますしね。例えば「share house」の訳は、「shared house」ではと言われたことがあります。シェアハウスと言う言葉自体が欧米にはないがアジアではシェアハウスと言う言葉が広がって認識されているから、「share house」で通じるという話になることもあります。信頼できない翻訳を渡すのが1番怖いので、そこはすごく固めて固めてやっています。

日本語にとても長けた中国人の翻訳を、あるとき見てもらったら「これグーグルの翻訳ですか」と言われたのです。すごく驚いたのですが、経験が長くて日本語のニュアンスが分かるので、日本にあって中国にないような言い回しを中国語化して訳していたのだけど、当の中国人からするとすんなり入ってこない表現もあるということも。

 

(質問)契約件数が多くなれば、効率よく標準的にというのは絶対必要だと思います。それは1週間ではできないと思いますが、その後は何か進みましたか?

このデータベースソフトと会計ソフトがいいというのはわかりました。ただ、どういう風に移行させていくかは誰かの力を借りないと、片手間ではできません。明日締切りという仕事が最優先になってしまうので、仕組みをちゃんと作っていくところは今からです。NPOでは、まだまだ技術者や、システムエンジニアに対しての理解が低い。震災のときから、今までにも技術者が関わってきてくれてはいても、なかなか定着しないというか、やっぱり言語というかレベルが違うのですね。技術者さんがすごく苦労してやられていることも、NPO側の理解が追いつかない。バックオフィスは組織の中でも肝になるところだと思うので体制を整えることですね。

 

(質問)次のステップへの課題を教えてください。

今使っているデータベースと会計システムは結構古くて、ローカルにおいているので、それをクラウド化させたいと思っています。

 

(質問)日々の業務をITの力をもって変えていくのは必須でそこに手をつけられたらさらに事業展開ができそうですか?

病院の通訳の場合、今日、明日、明後日にということがたまにあります。リストの中の頼れる人に電話をかけますが、もしデータベースでこの人は第3金曜日が空いている、この時間が空いているといった情報がもっとしっかり分かる環境ができれば、データベースが勝手に候補を上げてくれる、空いている確立順に表示されるといったことが実現できるかもしれないですね。データベースの活用法を刷新できる仕組みづくができたら、だいぶ楽に、その分余力もできると思います。

 

(質問)一般論として、お金が捻出できればテクニカルな人も雇えるし、そのお金をどうやって捻出するかのジレンマはありますか?

NPOの中の優先順位としてテクニカルな部分にまで意識が広がっていないのが実際の部分ですね。「忙しくなってきたからシステム」ではなく、コーディネーターを1人増やそうかという話になると思うのです。そこを、システムのところの人を増やすことによってもっと業務量をこなせるようになる、人件費を増やさずに対応できる件数を増やすという風にしていかないとダメだなと考えているところです。

プロジェクト紹介

1WEEKトライアル:
通訳・翻訳事業の業務フローの見える化と改善点を洗い出し、ベストマッチなツール検討にトライ