レポート「SDGs時代の経営戦略と人材育成セミナー」

開催概要
日時:2019年07月10日(水) 15:00〜17:30
場所:起業プラザひょうご

さまざまな社会課題が顕在化する昨今、企業は、持続可能な開発目標(SDGs)や経営戦略、人材育成にどのように対応していけばよいのでしょうか。今回のセミナーでは、日立製作所の先進事例と、神戸ソーシャルブリッジによる「プロボノ※」の事例に学びました。

※ 「仕事の経験やスキルを活かした社会貢献活動」のこと。語源は「公共善のために」を意味するラテン語。

第1部トークセッション 日立製作所が取り組む社会課題起点のイノベーション事業とは?

ゲスト

株式会社日立製作所
増田典生 氏

1961年、神戸市生まれ。
1985年、日立西部ソフトウェア株式会社(現・株式会社日立ソリューションズ)に入社。
現在は日立製作所にてグローバル渉外統括本部サステナビリティ推進本部企画部長を務める。

――SDGsを会社の中でどのように位置付けていくのかは大きなテーマです。日立製作所は、いち早く経営にSDGsを取り入れておられます。

増田さん:
私が所属しているサステナビリティ推進本部では、2017年から日立製作所(以下、日立)の長期の経営事業戦略をつくっています。社会価値や環境価値といった非財務価値をどのように生みつづけられるのかを考えています。

まず、SDGsが掲げる17の社会課題や環境課題の中から、日立が貢献している目標を11個に絞りました。やや日立の事業から遠い目標は除いています。

 

企業活動全体で貢献するSDGsの目標

4 質の高い教育をみんなに
5 ジェンダー平等を実現しよう
8 働きがいも 経済成長も
12 つくる責任 つかう責任
13 気候変動に具体的な対策を
17 パートナーシップで目標を達成しよう

事業戦略で貢献する目標

3 すべての人に健康と福祉を
6 安全な水とトイレを世界中に
7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
11 住み続けられるまちづくりを

日立は2019年5月に3カ年の中期経営計画を発表しました。これからの3年で、社会価値、環境価値、経済価値を重視した経営をしていくことになります。これからは、そういった非財務価値の追求を経営において、どのように実行していくのかを考えるステップになります。

 

――非財務価値、お金に表れてこない価値にコミットされる背景をお教えください。

増田さん:
事業は、お客さまと社会に対して、バリューを生み出しつづけることが本質と考えています。日立はBtoB企業と言われますが、BtoBtoCtoSというバリューチェーンを形成しています。取引先の先には、カスタマー/クライアント(Customer/Client)がいて、さらにその先には社会(Society)があるという考え方です。最終的には、社会的イノベーション事業を進めることで、社会に価値を提供しています。この価値は、金額に換算することが難しい無形価値(Intangible value)が多いです。ですから、どのような価値を生み出しているのかを、社会価値や環境価値の視点で見ていく必要があります。

 

――最後にS(Society=社会)がつけられているんですね。社会課題を起点にする事業展開というのは、日立の伝統なのでしょうか?

増田さん:
創業者である小平浪平が見ていたのは、目の前のお客さまではなく、社会であったことは間違いありません。とはいえ、日々の現場では、それぞれが業績を背負っていますから、すべての業務を社会課題の解決から逆算して実行できるわけではありません。そこで、私たちは、自社リソース起点と社会課題起点のバランスを次のように考えています。

 

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普通の事業は、既存商品を既存市場にどのように展開するかを考えています。個人的な感覚値ですがここに約7割の経営リソースを配分していると思います。中期的には、どのような新しい市場に入っていくかを考えていて、そこに2割くらいのリソースを割いています。これら9割は、自社が持っているリソースをもとに発想しているんですね。

残り1割は、社会課題を起点にして考えていこうとしています。いわば、7割が「今日のメシのタネ」、2割が「明日のメシのタネ」、社会課題起点は「明後日のメシのタネ」であるわけです。

 

――「明後日のメシのタネ」という言葉は、とてもわかりやすいですね。社員の皆さんは、どのように共感されているのでしょうか?

増田さん:
サステナビリティ推進本部では、プロボノを実施していて、説明のために現場を回ることがあります。その際には、「プロボノは、事業部門の新しい事業のネタを拾えるチャンスになりますよ」と伝えると説得しやすいですね。

例えば、学校教育支援という事業があります。学校に営業をしている担当者たちは、日頃の営業活動とは違うかたちで、学校関係者と関係をつくることもできます。各事業部門が目指していたり、悩んでいたりする事柄にフィットするような提案をすると受け入れられやすいですね。

副次的な効果として、社員のモラルやモチベーションのアップにつながります。 最近の若い社員の皆さんは、社会に貢献したい気持ちが強いんです。「うちの会社って、良いことやっているんだな」と感じてもらうことで、会社に対するロイヤルティ(帰属意識)は実際に上がっています。

 

――社会にとって良いこと、社員にとって良いこと、そして会社にとっても良いこと。そのようなwin-winの関係が大切で、協創という言葉を使っておられますよね。

増田さん:
そうですね。さまざまな社会課題が複雑化していて、日立単体で解決できないことが多くあります。そこで、企業と企業だけではなく、学術機関やNGO、NPO、地域コミュニティなどの多彩なプレイヤーと連携・協力することを大切にしています。これを我々は「協創」と呼んでいます。

例えば、神戸では、神戸大学と協創のためのラボがありますし、その他にもさまざまな連携に取り組んでいるところです。また、プロボノは協創を実感できる良い機会ですね。

 

――社内では、プロボノをどのように位置づけておられますか?

増田さん:
日立では、CSR活動を「守りのCSR」と「攻めのCSR」に分けて定義しています。

守りのCSRは、コンプライアンスやガバナンスなどです。一方、攻めのCSRは、本業を活かしながら、社会課題や環境課題を解決していくという積極的な活動を指します。

外に向けた攻めのCSR活動の中で、プロボノ活動をとても重要視しています。社員個人が自分の専門性を活かして、社会課題の解決に貢献するわけですね。日立では、短期間でNPOや地域などを応援するちょこっとプロボノ「ちょこプロ」に取り組んでいます。一方で、長期の地域活性支援もしています。

 

――プロボノを導入して、社員の皆さんからのリアクションを教えてください。

増田さん:
プロボノを社員へ説明するときに次の4点を説明しています。

  1. NPOや地域コミュニティなど、普段とは異なる交わりの中、多彩な経験を積むことで、自身の視野・知見を広げることができます。
  2. 直近の業績に縛られず、本業を活かした社会課題解決のあり方や新事業創出に向けてフィジビリティスタディ(プロジェクトの実現可能性を事前に調査・検討すること)ができます。
  3. 相手の “顔と反応”が直接見えます。責任とやりがいがあります。
  4. 組織を越えて、志を同じくする仲間のネットワークが構築できます。

会社での業績に関係はしませんが、直接感謝される経験を持つことができますし、普段と異なるフィールドで専門能力を発揮できます。応援するNPOや地域コミュニティの方々からは感謝の言葉を直接いただけて、やりがいを感じますし、日立社員として社会と向き合うことを実感できます。

特にバックヤードの技術者はそういった経験を得難いので、相手から直接感謝の言葉を聞けるのは大きな喜びになるようです。

 

――中期経営計画での知財の価値を高めていくことを表明されていますが、これからの3年間で取り組もうとされていることをお教えください。

増田さん:
まず、事業が創出する社会環境価値を見える化をしていこうとしています。その価値を計るメソッド(方法)を開発しようとしています。グローバルで見てもあまり統一されたものが無いんです。

我々は、事業が創出する価値を社会価値、環境価値、地域経済価値の3つに分けて考えています。それぞれにどのようなインパクトがあるのか、項目を用意し、ポジティブ/ネガティブで定量評価しようとしています。

インパクト項目を洗い出し、定量評価を行い、それらの価値を金額換算していくステップを踏まなければなりません。すべてを金額換算はできません。定性評価と定量評価を行い、定量評価は金額換算、非金額換算に分けられます。非金額換算とは、例えば、何人にベネフィット(利益)があったのかといったような評価です。これら3つを組み合わせて、見える化に取り組んでいます。

次に、気候変動にどう向き合うのかが大切です。具体的には、脱炭素ビジネスに注目しています。日立はCO2の9割近くを製品サービスの使用時に排出していますが、ビジネスそのものの脱炭素化が重要だと考えています。

 

――これからの社会人、企業人のあるべき姿についてどのようにお考えでしょうか。

増田さん:
求める人物像って、私は「青黒い人」だと考えています。「青臭くて腹黒い人」のことです(笑)

プロボノやCSRって、ある種の理想論ですから、青臭いんです。でも、それを具体的に社内で進めていくには、政治力のような腹黒さも必要です。若い人は青臭いけれど、力がまだないことがありますね。年を取ってくると、腹黒さばかりになってしまうかもしれません。両方を兼ね備えた人が理想的ですね。

 

――最後に、今日ご参加の企業の皆さまにメッセージをお願いします。

プロボノをぜひ薦めたいと思います。プロボノに参加した社員は、皆、満足していますね。いつもはチームで仕事をしていますが、それぞれがひとりで応援するNPOや地域コミュニティの組織と向き合うので、「普段よりも日立の社員であることを意識した」と言う声もありました。ですから、モチベーションも高く、おのずと何かをつかんで帰ってきます。ぜひ皆さまも導入をしてみてください。

 

第2部 神戸ソーシャルブリッジプロジェクト経験者トーク

ゲスト

日本イーライリリー株式会社
安原 菜津子 氏

人事本部にて、人材開発・組織開発・ダイバーシティ推進を担当。製薬業界の ダイバーシティ&インクルージョン推進に取り組み、特に女性管理職の育成、増加への働きかけを行う。

安原さんは、2018 年度の神戸ソーシャルブリッジ(以下ブリッジ)において、NPO 法人インターナショクナルのプロジェクトに参加されました。インターナショクナルは、食材を絵文字で表示する「フードピクト」を展開しており、最近では G20首脳会議の会場内レストランでも採用されました。今、フードピクト事業は株式会社化され、NPO 法人は教育や防災分野の事業にも取り組んでいます。

安原さんは 2018 年度インターナショクナルのプロジェクトに 2 回参加されていて、事業運営アイデアのブレーンストーミングに 1 週間、ステークホルダーやクライアントへのヒアリングや情報収集と改善提案に 2 ヶ月間取り組まれました。

 

――神戸ソーシャルブリッジに参加されたきっかけを教えてください。

安原さん:
これまでのキャリアのなかで、仕事で成果を出すことが楽しく、コミットしてきました。子どもが大学に入り、手を離れてから、自分の時間が少しできはじめ、第二の人生を考えはじめていました。そんなとき、会社で神戸ソーシャルブリッジのパンフレットを見かけ、興味を持ちました。短期間で取り組める点にも背中を押され、ターニングポイントになるのではないかという思いで参加を決めました。

 

――社会課題や支援先 NPO について印象に残っていることは何ですか?

安原さん:
私が想像していた以上に、NPO 団体は社会に対する問題意識が明確で、そこに貢献したいという気持ちの強さを感じました。特に、インターナショクナルさんでは、代表の菊池さんがフードピクトを始めるきっかけになったエピソードを聞き、その思いの大きさが強く印象に残っています。

 

――NPO における課題解決は、会社での業務と比べて、どのように違いましたか?

安原さん:
皆さん、日頃の業務のなかでは、役割と責任がはっきりしていますね。そして、上司という管理監督者もいます。しかし、プロボノでは、管理者や役割と責任がない状態、上下関係がない状態でどのように進めていくのかが仕事との大きな違いですね。いかに良いリーダーシップを発揮できるかが重要でした。自分で課題を発見することが求められます。

 

――チームはどのようなメンバーだったのでしょうか?

安原さん:
20〜50 代と年齢、性別ともにばらばらでしたね。企業の方、行政の方、定年を迎えられた方など、キャリアやバックグラウンドもさまざまでした。

 

――そういった多様な構成のチームで、コミュニケーションはうまくいきましたか?

安原さん:
皆さん積極的な方ばかりでしたし、互いを思いやるリスペクトをお持ちの方でしたので、コミュニケーションに問題はありませんでした。ただ、全員が常に集まれるわけではないので、LINE を活用するなど、それぞれに無理がないように役割分担をしていました。

 

――異業種が集まったチームでプロジェクトを行なったことについてはいかがでしょうか?

安原さん:
私自身は、仕事で異業種の方とプロジェクトに取り組む経験があまりありませんでした。一番難しかったのは、

「ことば」ですね。例えば自分の業界で当たり前だと思って使っている言葉が伝わらないことがあります。同じ言葉でも、ビジネスエリアによって意味が異なることがあるからです。言葉の定義づけをしっかり行うことが大切で、丁寧なコミュニケーションを心がけました。

 

――プロジェクト全体を通しての感想を教えてください。

安原さん:
まず、人のつながりが非常に広がったことが大きいです。いろいろな人と知り合うことができました。

私はダイバーシティに信念をもって日頃の業務を行なっているので、それに関わる NPO のプロジェクトに取り組みたいという思いがありました。このプロジェクトを通して、ダイバーシティに対する知見が広がり、仕事にも役立っています。

また、セルフリーダーシップを身につけることもできました。よく知っている仕事の同僚のなかでのリーダーシップと、まったく知らないメンバーでのリーダーシップは、まったく違いますよね。プロボノはリーダーシップスキル育成に有効で、チームビルディングやプロジェクトの動かし方などを身につけることができ、人事面でとても良いと思います。

 

――春のプロジェクトでは、日本イーライリリーチームとして、企業参加をされています。企業としての神戸ソーシャルブリッジの活用の可能性についてお伺いします。

安原さん:
弊社は、本社が神戸・三宮にあることもあり、神戸愛が強く、神戸に貢献したいという気持ちがあります。神戸への貢献を、ブリッジを通じてできるということで、活用しています。

また、プロボノ活動を通じて、自身を育成したり、様々な経験を積むことができます。プロボノによって、自身のスキルや可能性を自覚して、会社に戻ってくることは大きいですね。会社にとっても、1つの育成の機会として活用することができます。